4.左肘の高さについて
左腕の高さは非常に重要である。P・トルトリエ氏は著書の「How I teach, How I play」の中で左腕のポジションは6つあり、ネックポジションとハイポジションでは多少腕の高さが違うとしている。しかし、実際には多くのチェリストがネックポジションで左肘が下がりすぎているのをよく目にする。その理由のひとつには、室内楽やオーケストラ、またはバッハの組曲のようにハイポジションをほとんど使わない曲を弾いている間に知らず知らずに肘が下がってくるのが理由であろうと思われる。バロック期にはそうして弾かれていたであろうと思われるし、あながち誤りとも言い切れない。実際に第4ポジションまでなら肘が低くてもあまり問題は生じない。 しかし、すでにハイドンの協奏曲ではネックポジションから親指のポジションを速いテンポで弾かなければならないパッセージが多く出てくる。
こういう場合ネックポジションで肘が低すぎると第4ポジションから親指のポジションに移る時、肘に非常に大きな動作が要求され、シフト時に音程が不安定になったり正確に取れなかったりする原因になる。又反対にハイポジションからネックポジションに下がる場合も、肘を下げた勢いで音程が不安定になるのをよく見かける。
これを避けるために、腕は第1ポジションの時からすでに高い位置にあることが望ましい。(写真) 要約的に言えば、腕の上げ下げに肘を振り子のように使わず、動作の要(かなめ、あるいは定点)として使うのである。 この場合、ひじの位置は第4ポジションもハイポジション(親指のポジション)も同じ位置で、左手首はこれによってわずかに内側に折れ曲がることになる。
多くの教則本では左手首は水平またはわずかに外側に丸まっていることが好ましいと書かれているが、私の経験と他の多くのチェリストたちとの情報交換からこれは誤りであるといえる。
人の手は握りこぶしを作ったとき下の写真のようになる。指で弦を押さえる行為は物を握る動作に非常に近い動作であるので、実はこの形がいちばん腕の筋肉と腱に負担をかけずに、指を合理的に動かすことができるのである。
特に第1、2、3、指は腕の中の筋肉から腱によって動かされていて、指には筋肉が無い。手首を僅かでも丸くすると、これら3本の指の腱は腕の外側にあるので少し伸びた状態になることがわかる。この状態で指を素早く動かすと腱に大きな負担がかかっていることが実感できるはずである。
腕を長時間このような高い位置に維持しておくことはある程度の訓練が必要であるが、ロングトーンの15分間はその為に非常に効果的である。
15分間は長くもあり短くもあるが、楽曲の中で15分間一度も弦から弓が離れず弾き続ける曲はおそらく無いと思われる。協奏曲などでは一般的にひとつのソロパッセージは長くて5、6分である。私が知っている範囲でいちばん長い曲はおそらくO.メシアンの
≪Louange a l’eternite' de Jesus ≫で、表示どおり16文音符=44で弾くと約10分かかる。バッハでは第6番組曲の「アルマンド」が繰り返しを入れると約7分。 メシアンの場合は10分間弓が弦から離れることは殆どない。 ここまで述べてきたロングトーン、又はチェロ座禅の効果はこのメシアンの難曲を弾くための下準備としてだけでも大いに効果があるだろう。
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