津留崎直紀  violoncelliste の

チェロ基礎練習法

 

 

 

 

 

 

チェロ基礎練習法

1. 15分のチェロ座禅


2. 音程について

3.左手と弓について

4. 左肘の高さについて

5.音階練習 1

6、音階練習 2、 単音3度音階

7.二重音音階


8 . 重音三度

9.重音6度

10. オクターヴ

11. アルページョ




 2010年11月から 新連載
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CD バッハ無伴奏チェロ組曲

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2010年1月7日

1. 15分間のチェロ座禅

今回から何回かに分けて僕が日ごろから行っているチェロの基礎練習法を紹介する。プロ、アマチュアを問わず参考にしていただけたら幸いです。是非ご感想やご質問などもお寄せください。

 座禅を本当にやった事はないが真似事は時々している。本で読んだ事があって真似てみたわけである。経験のある方はお分かりだと思うが、初めの3〜4分がとてもつらい。雑念、想念、ラーメン、ソーメン、ありとあらゆる事が頭に浮かんできてなかなか集中できない。こんな事では到底1時間はおろか15分も持たないだろうと思う。ところが7〜8分そうして我慢していると少し気分が変わってくる。そしてあら不思議10分も経つとなかなかいい気分になってきて知らないうちに30分くらい経ってしまい、やめる頃にはなかなか心地よくて、まだまだ続けられそうな気分になる。散歩や山歩きの時も同じ経験を良くする。どうも人間の生理と言うか内部構造というかそういうものが、そういう風に出来ているような気がする。

 さて、チェロの話。基礎練習の第1は4オクターブの何の変哲もない音階を上下するだけだが、その速度がここでは一番大事。8分音符=32〜34が理想。子供や初心者はちょっと無理なので初めは50〜60位で3オクターブから初めても良い。ただしメトロノームを設定して完全にメトロノームに従う事が肝心。一小節8拍、8分音符32の場合で一音に付きちょうど15秒かかる。これで4オクターブ往復すると14分かかる計算になる。例としてハ長調をここでは掲載したがこれを全24調で行う。
  指使いは、ハイポジションで1と2ばかりのモノは避けて、第3指を多く使う方をお勧めする。初めの数小節は座るのと同じで気分が乗らない時はなかなか厳しいが、14分間断じて中断無しに行う。


 この14分と言う数字が非常に示唆に富んでいるような気がする。チェロのソロの曲で14分間中断無しに弾く曲はまずないだろうと思う。知っている曲全てを当たってみた訳ではないので断言は避けるが、バッハで言えば繰り返しを入れて一番長いのは第六番のアルマンドで僕のCDでは確か7分くらいだった。これはかなり長い方。と言うか僕が知っているうちで多分一番長い。(註*)協奏曲などは間奏が入るので何回かのソロパッセージを合計すると例えばドヴォルザークで20分くらいだろうか。各々のパッセージは長いところで5〜6分、普通は3分程度ではなかろうか。だから、14分は非常にに長いのだ。

基本的には左右の腕、手首、指の筋肉トレーニングと思ってもれえればいいが、これに耳と視覚と集中力をぼくは付け加える。

筋肉トレーニング

 良く下手になることを「腕が落ちる」というが、この言葉はチェリストにはものすごくよく当てはまる。チェロを弾く為の基本的姿勢というのはだいたいどの教則本にも載っているのでお分かりだと思うが、右腕の高さ、特にA線を弾いている時の高さは、普段の生活で長時間維持する事はほとんどない。左腕も同じことが言えるが、こちらはいろんな流派があるので一概には言えないが、僕の場合は左腕は親指が棹を越えてハイポジションになった時の高さを下のポジションでも維持する事にしている。この高さはおおよそ右腕がD線上にあるときくらいの高さで両腕がこの時ほぼちょっと開き目の「ハ」の字くらいになる。また、C, G線上の第四ポジション程度の肘の高さでもある。この腕と肘の高さを、繰り返すようだが14分間維持する事になる。決して「腕を落とし」てはいけない。どの筋肉がどのように働いてこの高さを維持しているかまったく知らないが、この訓練はソフトだがまごう事なき筋肉トレーニングだ。右腕も同じ事で特に高い長(ロ長調のような)の時はA線にいる時間がぐっと増えるのでやり応えがある。これを毎日やっていると背筋はきちんと伸び、両足のかかとはしっかり床にと言う基本的な姿勢は自然に身に付く。と言うよりそれ無しではかなり無理と言っていい。
 もうひとつ肝心の指の事も付け加えなければならないがこちらは又あとで書く事になるのでのでここで一言だけ、それぞれの音の変わり目は指をハンマーのように打ち下ろし瞬時に正しい音程が取れることを目指す。


 耳は当然と言えば当然だが一番重要なことはひとつの音から次の音へ移る時にリアルタイムで次の音が正確な音程を取れること。15秒間もあるからその間に何とか探り当てようなどとは決して思わない事。この為に僕はチューナーを使うことをお勧めする。チューナーの針がぶれずにじっとしている音を目指す。高音域はなかなか難しい。ここで問題になってくるのがどういう音程の取りかたをするのか?だ。主音、下属音、属音にたいして長3度音は「小さい」方かはたまた「大きい」方か。ここではこの問題はあまりに複雑になりすぎるので飛ばさせてもらいます。重音の時に書こうと思うが出来れば説明を避けたいくらいややこしい。

視覚と耳 音の絶対的位置

 こちらは少し付随的だが、楽譜を使わず行う時は音符を頭に浮かべながら行う。視覚として捉えられた音符と現在耳に聞こえている音を頭に徹底的に関連付ける。また、それぞれの音の絶対的位置を肉体的に記憶させる。 テナー記号が苦手な方はこの画像のようにテナー記号を多く使うとよい。チェロの音域は実は多くの場合テナー記号に向いている。譜読みが苦手な方には特にお勧めする。2、3ヶ月で驚くほど譜読みが早くなる事請け合いである。

さて、こうして今朝も14分間の座禅チェロを終えました。気分が爽快になりましたか?

 

註* この項を書いた時メシアンの"Louangee"を忘れていた。約10分かかる。