バッハ
無伴奏チェロ組曲
全6曲
  ライヴ録音CD

北海道樺戸郡新十津川町
ゆめりあホール にて
2004年8月1日 収録

ナミ・レコード
より2月25日発売

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「レコード芸術」5月号で準特選

CD解説 「バッハ随想」より抜粋


 チェリストをドン・キホーテに譬える事がしばしばある。その訳がR.
シュトラウスの交響詩によるのか、決して小さいとは言いがたい楽器と格闘している姿が滑稽に見えるからなのかは知らないが、バッハのチェロ組曲全曲を一晩で演奏するのはそのようなとらえ方がされる事のひとつかもしれない。確かに2時間半にも及ぶ演奏をたったひとりで挑むのだから孤軍奮闘の様が、さながら風車に挑むドン・キホーテのように見えるのかも知れない。しかし、これには私なりの理由がある。

 楽譜が印刷されるようになった18世紀始め頃からだろうが、室内楽などの小規模な音楽は6曲単位のセットで出版されるのが一般的になってきた。当然作曲家もセットとしての統一性を意識するにせよ、無意識にせよ、求めたと思われる。そしてこのチェロ組曲でも、印刷出版は当時はされなかったが、同様なものがはっきりと存在することに気付く。それは調性的な繋がりの巧みさである。組曲という楽曲形式は単一の調性で全体が書かれているので、一つの組曲だけでは調性的変化の乏しさは否めないが、組曲を次々に奏する事で調性的発展性が得られる。6曲の調性を順に並べてみると、G−d−C−Es−c−D (ト―ニ―ハ―変ホ―ハ―ニ)となる。G、D、C の三つの調性は開放弦上に主音を置いた調性なので、開放弦の響きを利用した様々な効果や響きが得られる。

 しかしこの三つの調性の間にEs(変ホ)を置くことによって調的な変化と、ある意味での断絶とを生んでいる。主音が開放弦上にない為に開放弦の使用が制約される反面、この調性独特の温かい響きが、壮大な第3番のハ長調から大きな変化を生み、続く第5番のハ短調(変ホ長調の同主短調)への橋渡しの役割にもなっている。また、ふたつのD(第2、第6)とふたつのC(第3、第5) は、それぞれ長調と短調で、第4番を中心に、均一に配置されている。さらに3曲づつ前後に分けると、長−短−長という調性の組み合わせになっていることも見逃せない。この第4番の調性がチェロ奏者にとっては他の5曲に比べて格段にあつかいにくい調性で6曲の中では一番演奏されることが少ないのだが、6曲通して聴くとこの調性をバッハが偶然に選んでいない事が良く解る。