津留崎直紀  violoncelliste の

チェロ基礎練習法

 

 

 

 

 

 

チェロ基礎練習法

1. 15分のチェロ座禅


2. 音程について

3.左手と弓について

4. 左肘の高さについて

5.音階練習 1

6、音階練習 2、 単音3度音階

7.二重音音階


8 . 重音三度

9.重音6度

10. オクターヴ

11. アルページョ




 2010年11月から 新連載
オーケストラ エクササイズ

作品目録 

編曲作品目録


CD バッハ無伴奏チェロ組曲

音楽随筆

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もくじ

 

表紙

 

2010年10月11日

3. 左手と弓

 ロングトーンを行う時注意すべき事柄を書く。

 学校で教えていた時は生徒たちにもやらせたし、いろんな人にも話したことがある。ロングトーンそのものは、多くのチェリストたちにとっても、取り立てて目新しいことではないと思う。僕も学生の頃からずっと行っていたが、これだけゆっくりなのは話には知っていたが実行に移したのは12−3年前からである。よく言われるのは「何の為に?」である。その質問は良く解る。 でも、やってみれば何かが変わることは間違いないはずである。何が変わるかはその人によって少しずつ違うかもしれない。

 

左手の指

         力持ちの1、力強くやさしい2、怠け者でのろまな3、頑張りやで健気な4

 指の形については、それぞれの音が長いので注意する時間は充分過ぎるくらいある。この機会を大いに利用してほしい。

 4本の指はそれぞれ独立していなければならない。弦を押えるのは指の「腹」ではなく、「先端」である。3度重音を弾く時のように指が外側の弦を触らないこと。特に第3、4指は外側の弦を触りやすいので注意する。 理想は、指先の弦を押える中心点と、弾いている音の指板上の絶対的位置が完全に一致していることだ。 この二つの点はどちらも非常にに小さい。

  ここで良く見かける、避けなければいけない事柄をいくつか紹介する。 まず初心者にかなり多いのが第1指に他の指も束ねてしまう「団子手」である。 第1指は力持ちである。初めてチェロを持った人でもこの指だと押さえて一応音が出せるくらいの力はある。なのに多くの人が第1指に力を入れすぎて、あまつさえ他の3本の指を重ねて応援に回すことまでする! 今弾いている音の指のみが働き他は休むのが原則である。感覚的に言えば肩からから先の全ての腕の重さを一本の指が支えている感じになる。決して腕の力で内側に向けて引っ張ってはいけな
い。

 次は第4指の時手が反対側にひっくり返ってしまう人。指の力に自信がないとついやってしまいがちな誤り。1、3、4のような指使いの時に左手の甲をひらひらと廻して弾く人にこのくせを持つ人多いが、これは本来力の弱い第4指の訓練にならない。ロングトーンの時は厳に避けなければならない。第4指はか弱いが鍛えるとどんどん強くなれる。親指と小指は他の3本と違って、手の中に筋肉を持っている。小指の下側、手のひらの右側の部分である。訓練によってこの部分の筋肉は発達する。とりあえずは他の指の応援を一切断って、一人で頑張らせる。但し、他の3本の指は指板の近くに下りていること。 4指は小さいけれどなかなかけなげに頑張り屋である。

 第3指はなかなか厄介である。もともと弱い指であり使っていないと衰えるのも早く、覚えこみも悪い、4本の中では一番出来の悪い指だ。にもかかわらず、楽曲の中では大事な音を弾かなければならない機会が多い。 音階の時には出来るだけ多くこの指に注意を注ぐべきである。 第三指は本来弱い指なので第1関節が良く反転してしまったりする。 これは一部の教則本や教師に良くないことだと言われているが無理に直す必要はない。ポール・トルトリエは全ての指について関節がまっすぐな状態が理想であると提唱していたが、これは氏も認めていたように非常に困難である。それよりはむしろ反転している状態を使えるように訓練する事の方が有効である。 この指は力が弱いのでハイポジションで小指をボディーの方に引っぱり弱さを補っているのを良く見かけるが良くない。特に第6、7ポジションで第3指は楽曲の中でも重要な役割を背負うことが多い。

 第2指は取り立てて書く事がほとんどない優等生である。もともと力もあり耐久性も抜群なので楽曲の中では大事な音に一番良く使う。音の絶対的位置を覚えるのが一番早いのもこの指のような気がする。

運弓について

 弓の毛は原則として全ての毛が弦に接触していること。これによって豊かな音量が得られる。弦にかける弓の圧力はことさら強い必要は無い。A線の弓先では弓が手前に倒れこみ接触している毛が半分くらいになり、音が痩せやすいので十分注意が必要である。

  弓元では手首が少し丸まっていて高い位置(弦の上に)あること、弓先では腕が十分に伸びていることが重要である。腕の長さは個人差があるので一概には言えないが、私くらいの体型(身長 165cm前後)の場合はA線上の弓先ではひじが伸びきった位置になる。腕をしっかり伸ばして弓先までしっかり使えるために必要な腕のストレッチングの役割も果たしている。

 ダウン(下げ弓)は基本的には単純な動作である。弓元で少し高い位置にあり丸まった手首を少しずつ平らにしながら、まず腕全体を肩から動かしながら開いて行き、弓の中央部あたりから前腕を開きはじめる。 手首は弓の進みによって次第に僅かに内側に折れ曲がる事になる。この時腕が体の内側に向かって回転し、ひじが上がってはいけない。弓先でも右手は水平に近い位置であり、指を弓から離さない。

 それに比してアップ(上げ弓)は難しい動作である。ダウンの動きを裏返した動作ではあるが、人の筋肉の出来方から由来するのか、ダウンほど容易ではない。内側に折れた手首を少しずつ上げてゆきながら、伸びた前腕を徐々に折りたたみ腕の角度が60度くらいになった時点で今度は上腕を肩から体に近づけてゆくのである。よく見かける誤りとして、折れ曲がった手首のまま腕からアップを始めてしまうことだ。これは結果として弓元に来たときに手首が低い位置のままになってしまい、手首の柔軟性が失われる結果になってしまう。

 
  弓はこれだけ遅いと当然均一に配分しなければ到底15秒間、音を維持する事は不可能である。メトロノームにしたがって3拍目は4分の1、5拍目が2分の1となるように配分をみながら行う。弓先では音がやせてしまわないように注意が必要である。そのためには肘が充分な高さを維持していなければならない。 また弓の元は金具の部分が弦に触れるくらい充分に使う事。そのためには手首はある程度高い位置に来ていなければならない。

  右腕の高さは重要である。特にA線上ではかなり腕が高い位置に来る。ロングトーンの練習ではA線にいる時間が調によってはかなり長くなる。 人の腕は結構な重さがあり、それをたとえば5分間水平以上高い位置に維持するには背中や脇の筋肉が効果的に働いていなければならない。 A線を弾いている時の右腕は羽を広げた鷲のように悠然と。 

  ロングトーンは均一な音色を出来るだけ心がける事が重要だが止まってやり直すことは避ける。 ここで重要なのは「静」なる「動」である。腕の連続的運動でありそれによって鍛えられる筋肉の柔軟さと耐久力である。