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Beethoven 作品5 2曲のチェロソナタについて
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シューベルト アルペジョーネソナタ 4 第二楽章は大きく二つの部分に分けられる。第一部はシンプルで美しい3部形式A-B-A´のリートである。僕がドイツ語で詩を書けるなら書いてみたくなるくらい、シューベルトらしい清楚な美しさだ。前奏は3小節で例によってわずかな肩透かしを施しているが、チェロが入ってくる4小節目からは8小節のA部、8小節のB部ときっちりと割り切りの良い構成になっている。H-E-Fisの上行するモチーフは祈りのように真摯である。(音源10) (この録音では1小節目の第3拍目は掲載楽譜と異なります。この項の2を参照) B部のバスの動きは注目に値する。前半4小節はチェロにも動きがあらわれ一挙に高いDまで上るが、この時バスが饒舌なくらい2オクターブにわたって急降下する(*1)。しかしそれとほとんど同じ音楽がもう一度繰り返される次の4小節ではバスの動きは殆ど沈黙してしまう。(音源11)
話が少しそれるが、 このフォルテのある部分の自筆譜コピーを見ていて気付いた事がある。松葉型ディミヌエンドとアクセントのシューベルトの書き方が紛らわしく判然としないと言う事は昔から良く言われていた。確かにそういう部分は大いにあるが、この小節に限っていえば明らかにディミヌエンドに見える。
しかしそれもつかの間、バスは執拗に形を変え言葉を変えて何かを告げに来る。ピアノの8分音符は今度はE-Fの短2度でデーモニアックな警鐘を鳴らし続け緊張がいっそう高まる。(音源14)私はこの部分からさらに続くこのパッセージにシューベルトの死に怯える内面の吐露を聞き取らずには居れない。しかしこの不吉な音楽もまた安らかなE dur に回帰して何事も無かったかのように音楽は閉じられる。 ここで第二楽章は終了しても音楽は充分に満ち足りているのだが、シューベルトはさらに続ける。何を?もう何も無いのである。祈る以外には。長く長く引き伸ばされた息の長い祈りだ。一回目は簡潔にE durに回帰するが、 二回目に1オクターブ下がるとCナチュラルはさらに長く息切れるほどまで引き伸ばされる。バスはE-C-A-As-G=Ges-Fと底知れぬ絶望の深淵に沈みこんで行くのである。しかし右手高音部は反対に1オクターブ高く少しずつ明るいE dur の高みへと、何かの希望を求めるように向かって行く。(音源15) 絶望の淵にたどり着いた音楽はしかし再びE dur から立ち上がり、チェロの経過パッセージを経て第3楽章へと続く。
お断り:この項の音源2及び注以外の音源は1992年札幌サンプラザホールでの津留崎直紀(Vc) 野平一郎(Pf)によるコンサートの録音です。尚これらの音源を含めて当サイトの無断使用、複製は著作権法により禁じられています。
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